紹介する本:西 加奈子『きりこについて』
わたしはきりこ
ペンネーム 宇希さん
私はあまり自分が好きではありません。まず人見知りな所が嫌いです。それにも関わらず人一倍自意識過剰で自己顕示欲が強い所も嫌いです。そしてこんな訳の分からない矛盾を抱えた自分も大嫌いで、いつもうんざりしています。
けれど自分が嫌なのは私だけではないはずです。程度の差こそあれ、人は皆自分に嫌いな所があって、そのせいで小さくなって、くさくさする心があると思います。そんな心に強いメッセージを届けてくれる小説が『きりこについて』です。
この話はすごくぶすな少女・きりこが個性豊かな登場人物と共に成長していく様子を描いているのですが、読み進める内に私は思うようになりました。「あぁ。私もきりこだ。」と。
きりこは容姿というどうしようもない問題を抱えています。そして最初に書いた様に、私は私なりのどうしようもない問題を抱えているし、もちろん皆も…。誰だって形は違えどきりこなんです。
「ぶすの、きりこ。
きりこの、すべてが、きりこなのだ!
そして私は、そんなきりこを、愛したのだ!」
作中できりこに送られたこの言葉にきりこと共に私も救われるのです。
「こんなダメなあなただけど、あなたはあなたのままでいいんだ。あなたはあなたのままがいいんだ。」
そう言ってもらった様な気がしてくるのです。
更にすごいのは、こんな深いメッセージがこめられていながらもとにかく笑える所です。
それも狙った感じの笑いではなく、独特なテンポ感だけれど、心地よい音楽が流れる様な上質な笑いなんです。個人的にはきりこがいかにぶすであるか熱弁する箇所は何度読んでも笑えます。何も知らずにその世界に引き込まれて笑いながら読み進める。すると読み終える頃には感動し涙している。そんな笑いと涙がたっぷりつまった物語なのです。
この本は特に派手な事件がある訳ではなく、地味な物です。けれど読んだ人を心の一番深い所から幸せにする。そんな素敵な一冊だと思っています。