北区の豊崎、中崎町をはじめ、阿倍野区の昭和町、阪南町、天王寺区の寺田町、中央区の空堀、福島区の野田等あちらこちらに点在している大阪の長屋は、その形式もお屋敷風から洋風デザインまで多種多様で、その土地々々のかつての暮らしが垣間見える。11月28日(土)29日(日)、オープンナガヤ大阪2015実行委員会が主催する「第五回オープンナガヤ大阪2015」では、改修した新しい長屋や使い込まれた古くて美しい長屋など、そしてその暮らしを一挙に公開する。無料で内覧でき、説明を聴けるほか、展示や販売、ワークショップ、ゲーム等の催し物も行われ、大家さんや入居希望者など一般の市民にくわえて建築専門家や業者不動産関係者も参加する。老朽化した長屋は耐震補強や改修への負担感から空き家となったままであったり、安直に取り壊され、高層マンション、駐車場、商業施設へ変貌していったりと、うら寂しい現実がある。残存する伝統的な長屋の趣、長屋のある風景を大切にしようと、知識や技術を駆使し、センスを光らせ、熱意をそそいで、魅力ある新たなまちづくりに挑戦する試みがある。
「8年前にここに一歩足を踏み入れた時、これは奇跡だ、これは残さなあかんと思ったんです」と大阪市立大学大学院の藤田忍教授が話すのは、北区豊崎にある長屋群「豊崎長屋」。大阪梅田から徒歩15分の場所に、土の路地、樹木、プランターの緑、ヒューマンスケール……同大研究室の拠点ともなっているこの場所は登録有形文化財として登録され、数々の賞を受賞している。「まちづくり」を専門とする藤田教授は「長屋再生」によるまちの活性化を学生とともに模索してきた。店舗活用の事例はあるものの、居住モデルは難しいと考えられてきたが、マンション建て替えの数十分の一の費用で改修できる上、構造の専門家の協力による耐震補強や建築家による空間デザイン等によって改修された長屋は、これまでの「貧しい」「狭い」というイメージを一新し、明るく広々として洗練されているため、見ると大家さんも大喜びしたそうだ。学生は、工事のお手伝いや住民との話し合いの中で、建築、設計、デザイン等を勉強しながら、地域づくりに自ら参加することで、社会に関心を持ち、ひとと心を通わせ、建物だけでなく、その土地、その場所にも愛着を持つようになる。長屋の玄関先で、いすに座った高齢者の方を学生が屈んで見上げ、笑顔でお話している写真を見て、教授は感慨深げにもらす。「豊崎がうまくいったとしたら、それは学生諸君のがんばりのおかげ。彼らが一生懸命な姿を見ると地域の方は心を開いてくれます。冬場に、学生の女の子が梁にたまった90年分のほこりを冷たい水で洗っていると、おばあちゃんがお湯をもってきてくれたりね。」
イギリスで20年以上前から続いている「オープンハウス・ロンドン」は、NPO「オープン・シティ」が「都市デザインへの貢献」等を掲げて主催してきたイベントで、現在では800軒の建物を開放し、世界中から20万人以上が集まるという。2000年代からニューヨークやベルリン、ローマ等世界各地に広がりつつあり、これを大阪でもできないかと考えた教授らは2010年に「長屋路地アート」というイベントの中で、三、四軒の長屋をバスツアーで巡るという小規模なものから第一回をスタート。第二回は、一度も実行委員会を開かず、メールと電話のやりとりだけで、大学側はマップ作りと、目印となる「さをり織り」ののれんを提供してあとは各会場にお任せというゆるやかな連携をしたが、「実行委員会を開いてほしい」という要望もあり、それをとりいれてひととひとが直接会って対話を重ねながら、第三回、第四回と経ていくうちに、積極的に取り組む長屋の方が増え、学生サポーターの数もそれほど必要なくなったことから、第五回となる今回は、前回から10か所会場数を増やした28か所の長屋が「暮らしびらき」をする。
「実行委員会に来るひとは、会ってみるとおもしろいひとばかり。長屋が好きで、こだわりがあって、創造的で、周りのひとを幸せにする。いろんなひとを結びつけるネットワーカーなんですね。そういうひとたちを私は長屋人(ながやびと)と呼び、この言葉を広めていきたいと思っています。」建築にはその理念、生活に共感する人間が集う。藤田教授が命名した「長屋人(ながやびと)」には、新しいかたちで現代によみがえった「ナガヤ」に似て、「オープン」で「クリエイティブ」なアーティストが多いようだ。
詳しくは、ホームページ(http://opennagaya-osaka.tumblr.com/)をご覧ください。
(取材後記)
日々の生活を愛し、ひととの心の交流を大切にして、みんなで何かを創る過程で、すてきなまちができていくのですね。ユートピアは自ら作っていくもの。
赤松みさき ―学校の外を散歩中のこくご教師。ずぶの学校校長。