大阪からびんびん発信中!「ひと」をつなぐ 「かたち」にする 『接点デザイナー』  

 ミュージシャンやアーティストなど、大阪で活躍する個性豊かな面々がわらわらと集まる場所がある。中庭を取り囲むように不思議な建物が顔を寄せ合い、ぽつぽつと増築されている気配もある。それはまさに、人々が暖をとるためにやってきては団らんし、談笑する、巨大な囲炉裏のように見える。

 

 大阪市北区中崎にある「イロリムラ」は、ギャラリースペース、アーティストの貸し工房、音楽練習室、プチホール等を含む複合的な施設である。その一角にオフィスを構える「setten design株式会社」は、今年11月1日に創業9年目を迎えた。代表はビッグなお姿の「ヒランケン」こと、平山健宣(ひらやまやすのり)さんに、お話を伺った。

 

 ―「セッテンデザイナー」と自称される平山さん。どのようなことをされているのでしょうか。

 

「『セッテン』には「人と人とをつなぐ接点」と、「活版印刷で使用される道具で、作業の能率と精度を上げるセッテン」という二つの意味を込めています。具体的には、グラフィックデザイナー、ブランディング、イベント運営、アーティストマネジメント等をしているところですが、例えばアーティストマネジメントでは、現在、珈琲店で働く写真家の方に出張珈琲屋を開くことを提案しています。その写真家の方は、賞をとって有名になることよりも、目の前のひとに好きな珈琲を出し、お話しながら自分の作品を見てもらい、確実に一人ずつファンを増やしていく方が、彼女らしい仕事ができるのではないか、五年後、十年後も愛される息の長いアーティストになるのではないかと考え、試運転中です。」

 

―「消えないデザイン」や「そのひとらしい仕事」を追い求めていらっしゃるのですね。

 

「『デザイナー』というとチラシやポスターを作るひとと安易に思われがちですが、それが嫌で新しい肩書を考えることにしました。世の中にない肩書を自分で作ってしまえば、「その他大勢の中の一人」ではなくなります。『接点デザイナー』の仕事は、これから自分で形作り、証明していくことになります。この肩書は自分に課した「目標」でもあり、何かに迷った時はこの名前に立ち返って自分が何をしたいのかを考えるようにしています。結局は、人に頼られたいというのが根本にありますね。しかも純度の高い頼られ方をしたい。自分にしかできない仕事をしたいと思っています。」

 

 ―「大阪」に対する思いをお聞かせください。

 

「僕は生まれも育ちも大阪です。東京に行くことも考えましたが、東京は仕事に対してやさしいまち。仕事にあふれています。反対に、地方は自分からなにか生み出さないと、ここにいますよといわないと仕事にありつけない。大阪は出版社も少なく、新しいことを実行しようとするひとも珍しいので、逆に言えば、行動に起こしさえすれば気づいてもらいやすいです。ひとと同じことをやっても意味がないという気持ちは一貫しています。大阪を盛り上げようということで始めた『2000人で乾杯プロジェクト』は今年で四回目になり、来年も開催予定です。最初は「乾杯ってなんやねん」というムードで、さらされる衝撃もありましたが、今では応援してくれるひとが増え、規模も大きくなってきて、とにかく発信し続けることの大事さを実感しています。」

 

―今後の展望は?

 

「ゆくゆくは、東京をすっとばして海外に打って出ようと思っていました。けれども最近は『大阪』の『北区』の『中崎町』の『イロリムラ』からびんびんに発信して、大阪に来たらここは寄って帰らなあかんでしょと思ってもらえるようになったらいいなぁ。吸い寄せて仲良くなって、海外に種をまいておいて、いずれ回収しにいく、というのがいい気がしています。」 

 

―その力強い原動力はどこにあるのでしょうか。

 

「コンプレックスですね。高校を卒業してスケボーばっかりやっていたときに、先輩の勧めでTシャツを作ることになったのがデザインを始めるきっかけになりました。「デザイナー」という名前に憧れ、トラックの運転手をしながら独学でデザインの勉強をし、いきなりデザイン会社に入りました。でも僕絵が描けないんです。だったら描く練習をするという方法もあったのでしょうが、いったん逃げてみた。逃げてみて、落ち着いて自分に合った方法を考えました。そうして「文字」に興味を持つようになったんですね、「タイプグラフィー」の巨匠を探し求めて、手紙を書いて弟子入りし、学びました。」

 

―ネガティブを認めた上で、ポジティブに変える、ということですね!

 

「愚痴や批判などの感情や思考は誰にでもあると思いますが、その問題に対して実際に何かしら行動しようとするひとって本当に少ないんですよ。でも、そういう無駄にカロリーを消費しているひとが僕はむっちゃ好きなんです。そういうひとを見ると、ついおせっかいを焼きたくなってしまうんです。そういうひとたちに言いたいのは、本当に何かしたいと思うなら自分のしたいことから最後まで逃げんとってほしいということかな。僕はこれからも、そういう自分の好きなひとたちに必要とされる仕事をしていきたい。やっぱりヒランケンに頼んでよかったわということが連鎖的に続いていけば、そんな幸せな人生はないと思います。」

        setten design 株式会社HP http://settendesign.com/

 

(取材後記)

取材に行ったはずが、いつのまにか記者のお悩み相談になっていました。ビッグなヒランケンさんの包容力と安心感、誠実な姿勢とお言葉に多大なる勇気をいただきました。実行するひとは信頼できるひと。赤松みさき―逃げ腰のわりに無鉄砲なこくご教師。ずぶの学校校長。