「生」の美しさ ~坂口安吾「文学のふるさと」を読んで
私は「文学のふるさと」を読み直して、教科書には載っていなかった「芥川龍之介と農民作家」の話に驚きました。農民は自分が生きるために子を殺したという事実を芥川に突きつけ、「あんたは悪いことだと思うかね」と尋ねたのです。芥川は何とも答えることができませんでした。モラルを超えた事実に突きはなされたためでした。私も同様に突きはなされる一方で、むしろ私の「生」よりも、より現実めいていて、それが本物の「生」である気がしてきたのです。ふと思うときがあるのです。あまりにも「死」から遠すぎてふわふわしている私に、「今生きているの?」と。「死」は受け入れがたいものです。人間は弱いから。そのため、人間の逃げ場として文学が存在するのでしょう。この中にある世界観を信じることで、人間が「ふるさと」を受け入れられるように。私にとって「ふるさと」とは「死」だと思います。「死」という「ふるさと」はまさにアモラル、幸とも不幸とも言い切れない。この「ふるさと」を自ら受け入れたひとは、一瞬たりとも逃さずに「生」を謳歌しているように見えます。私はその「生」に美しさを感じるのです。